くわだてありき

田橋るう(たばし るう)です。吹奏楽とかアトマネとか高架下とかのはなしをしてます。

「わたしが一番きれいだったとき」

新しいアーティストというのは、聴いてみるまで、その良しあしがわからない。
そりゃ至極あたりまえのことだ。

では、私たちはどうやって新しいアーティストを知り、聴き、
気に入ったり気に入らなかったりするのだろう。

 

海外でとても売れっ子になって、今度日本でも演奏会をする、
というアーティストがいたとする。
でもまだCDは作ったことがない。
事務所はがんばって売り出そうとする。
売れない。売れない。困った。
当人も告知を頑張るが日本に知り合いが少ない。
まだ売れない。
広告費を増やす。
まだ足りない。
動員をかける。

 

当日になった。ぎりぎり7割客席が埋まった。
演奏は大成功だった。
帰りがけにお客様が口々にいう。

 

「こんなにいい演奏家だったのに、どうしてこんなに客席が空いていたのかしら。もっと売る方が頑張らないといけないわよねえ。」

 

こんな例はそれこそ売るほどある。売れないわけだけど。

 

また、ジャンルオーバーなアーティストほど、この時に苦労する。たとえばジャズとクラシックにまたがっている人物なら、当然2つの方面からアプローチするが、クラシック側からは「ジャズのひとでしょ」、ジャズ側からは「クラシックのひとなんでしょ」と言われてしまったりしようものなら立つ瀬がない。

 

 * * *

 

一体お前はなにを言いたいのだ、
タイトルの茨木のり子の詩の題名には、いったい何のかかわりがあるのか
という声がそろそろ聞こえてきた。

  

小田朋美という作曲家/ヴォーカリストがいる。
音楽ナタリー等で「東京芸大作曲科卒の非クラシック系アーティスト」と呼ばれる人物。津軽三味線アイリッシュ系など、幅広い共演者との作品がすでに世に出ている。本稿タイトルは最近リリースされた彼女の第2作CDの1曲目でありアルバム名である。

 とある菊池成孔フリークから誘われて、小田朋美の彼が共同プロデュースした1stアルバム『シャーマン狩り-Go Gunning for Sharman-』を聴いたのをきっかけに、私は彼女のうたを知り、のめりこんだ。アルバム最後のキラーチューン「カム・ダウン・モーゼ」を筆頭に、どの曲も理知的なアプローチにもかかわらず、ものすごくエモい。元楽器吹きでクラシック(室内楽)、ジャズ好き、ポップスも、という自分はひとたまりもなかった。

 

彼女はよく、日本の著名な詩人の詩を取り上げる。でもそのやり方が、ゲンダイオンガク的難解さでもなく、ポップスよりのなるい仕立てでもなく、はたまた童謡ばりの可愛らしさでもない、エッジの聞いたしつらえなのだ。

 

小田朋美の扱うジャンルは非常に幅広い。伝統的なクラシックの技法もつかいこなし、ストリングのオーケストレーションも美麗。インプロもできる。ダンスとも共演する。タンゴもジャズもできる。幅広すぎる。そしてそれらを濃淡合わせ混ぜた、分類しようのないところにこそ小田朋美の魅力がある。

 

 

さて一通りはまり込み、
友人知人に「これいいよ~」といってすすめようとして、
ふと困った。

どのジャンルが好きなひとにすすめればいいんだろう。

 

 

クラシックを好んで聴くひとにはあまり歌モノをすすめない私。またジャズと一口にいっても、ヴォーカル無しのものを好むひと、ビッグバンド方面が好きな人ではかなりの差がある。だからといってアイドル好きの知人や、広汎な意味でのポップス(J-も、K-も、A-も含む)を好きなひとにすすめようにも人を選ぶだろう。最近タンゴもやっているが、日本ではニッチすぎる。

 

ここで冒頭の質問がリフレインするわけだ。

 

「私たちはどうやって新しいアーティストを知り、聴き、気に入ったり気に入らなかったりするのだろう。」

 

 

皆、何を媒介にして音楽の情報を仕入れているのだろうか。音楽雑誌がこれ以上ないほど疲弊しきったこの時代に。

 

SNS?アーティスト自身が発信するSNSだけでもあっぷあっぷしそうなくらいにあふれているし、ただの愛好家ならその量は推して知るべし。

TV?無料放送は雑誌と同様の斜陽ぶりだ。

ではラジオ?ラジオは意外とありかもしれない。・・・

 

自分は新しい音楽が好き、なんでも聴くよ〜と言っているひとに問いたい。

あなたはなぜ、その音楽をはじめて聴くに至ったのか。

一度「俺はこれが好き!」と決めた後、その情報を刷新する機会はどれだけあったか。

じぶんから進んで新しいものに出会おうとしているか。

 

 * * *

 

彼女の音楽は、尖ろうとしているひと、尖っておらずにはいられないひとたちにとって、とても有意義なものになるだろうと確信している。新し物好きのひとびとにはおもしろがってもらえるだろうが、どこへフォーカスするべきなのか。

 

それで思い出したわけだ。なんかいろんな人が「俺のやってるこういうことはぜったい今一番いい感じの試みなはず!」と思っている場所へ、なにか書いてみよう、と。

 


しかし最終的に、それは却下された。あの雑誌様にはそれこそ「ジャンル違い」に見えたのが理由かもしれないし、PRぽく見えすぎたからかもしれないし、この文章が拙すぎたからかもしれない。

 

 

 

それはまあいい。
問題は小田さんの曲を私がいろいろな人にすすめたいと思っていること、そしてその勧める宛先をはかりかねて、こんな切っ先のの決まり切らない言葉を振り回した結果、こんなことになったという話だ。

 

小田朋美の新しいアルバムが出たので、最後にこれを紹介しておわることにしよう。

 

小田朋美『わたしが一番きれいだったとき:

『When I was young and so beautiful』

三枝伸太郎 小田朋美オフィシャルインタビュー『わたしが一番きれいだったとき:When I was young and so beautiful』

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もう一度問うておこう。

あなたはなぜ、その音楽をはじめて聴くに至ったのか。

一度「俺はこれが好き!」と決めた後、その情報を刷新する機会はどれだけあったか。

じぶんから進んで新しいものに出会おうとしているか。