くわだてありき(Bandsearchlightブログ)

吹奏楽(全国大会以外)とかコンサートホールとか高架下とかの話が主です。

俯瞰で見る、吹奏楽コンクール(あるあるの反対)vol.1

 お寒うございます。音楽業界でも出版業界でも、2月と8月はひっそりした時期ですが、そんな時だからこそ腰をどっかり据えて、コンクールのことでも考えようかと思っている今日この頃です。

 今までだってそうだったんですけど、吹奏楽に携わる個人の皆様の発言は、インターネット上で本当にたくさん読めるようになりました。それぞれがそれぞれの境遇で、悩み、愚痴を言い、嘆き、健闘をたたえ、意気投合し、それぞれの思いをつづっていらっしゃいます。

 同じような状況に立たされている人が自分以外にもいる、これほど心強いことはありません。あるあるネタの書籍が流行りに流行っているのもよくわかります。

 

 しかーし。
 ほんとうにみんな、同じ境遇、なんでしょうか。

 

 

 

  趣味でコンクールの地区大会や県大会を見に行っているのですが、各大会によって、都道府県によって、大会の「内容」には、かなりの差があることをご存知でしょうか。

 

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【県大会、その知られざるローカルルールたち】

 吹奏楽の楽しみには色々なやり方があります。プロしか聞きたくない、という人もいて当然ですし、全国大会で強豪バンドの演奏を聴くのが最高という方も、贔屓のバンドがあって応援している、という方も、更にはマーチングやパレードのほうがすき!という向きもあったり。
 そんな中、コンクールの上位大会には出てこないけどすごくいい音楽をやっているバンドや、人数が少なくても工夫して表現しようとするバンドに出会えるのが楽しくて、小編成部門(B編成)や地区大会ばかり聴いて回っているのが当方です。※プロのバンドももちろん好きですよ(念のため)

 大編成(A編成)の大会でしたら、最終到達目標として全国大会があるので、地区大会や県大会には上位大会へ推薦するバンドを選出する、という役割があります。2001年に始まった東日本学校吹奏楽大会*1のおかげで、小編成バンドにも支部大会より先の目標ができましたから、大編成だろうと小編成だろうと、県連盟でのコンクールには上位大会へ進むために出る、と思っている方も多いかもしれませんが。
 しかしB編成のコンクールの内容には、実はまだ統一されていない部分がたくさんあります。

 まだ地方コンクールを回り始めたばかりの頃、強烈なインパクトだったのが、石川県のB編成です。

 

【B編成なのに”課題曲”が存在する石川県】

  通常、大編成のコンクール(A編成)は12分の制限時間の中で、あらかじめ決められた課題曲の中から1曲と、自由曲を演奏するという規定になっています。対して小編成のほうは、自由曲のみで7分以内。通常、課題曲を演奏することはありません。ですが石川県の場合、ちょっと他とは様子が違っています。

 

66 Festive and Famous Chorales for Band

 フランク・エリクソン(1923-1996) によるコラール集。短いものなら8小節ほど、長いものでも2分とかからないコラールを集めた曲集ですが、この中から1曲を選び、自由曲の前に演奏する、それが石川県のB編成なのです。

 厳密にはこちらのコラールは「基礎楽曲」と呼ばれているそうです。基本的な奏法、ハーモニー、バランスなど、自由曲を聴いただけではなかなか見えてこない部分があれよあれよとあぶり出される様は、呆気にとられるほどでした。

 審査員にとっては、より「曲の魅力」に左右されることなくバンドを審査でき、審査される側は、背伸びして身の丈にあわない難曲を選んだとしても、全てがコラールでバレてしまいます。結果として、まっとうな道、地道に実力を磨くことこそが正当な評価につながり、良いことづくめというわけです。もちろん、出場団体の多い少ないにも左右されることだと思うので、すべての都道府県大会で採用可能とは言えないかもしれませんが、非常に合理的なやり方ではないでしょうか。*2

 

 

 【実はお国によって違う? 部門の設定】

 石川県の場合はB編成に独自の課題曲を与えるというローカルルールでしたが、そもそも部門の分け方が独特な県もいくつか見られます。

 強豪ひしめく埼玉県では、通常のA編成(中学は50名まで、高校・大学は55名まで)、B編成(35名まで)のほか、C編成(20名まで)とD編成(人数制限なし)があります。

f:id:uru_nazki:20190217225823p:plainhttp://www.ajba.or.jp/saitama/competition/H21Competition.pdfより)

  この場合、当然最も激戦区になるのはAの部。よく知られた県内の強豪校は、この部に出ている学校がほとんどです。Bの部は前述の東日本大会があるので、Aの部同様全国大会まで目標があります。Cの部はあまり知られていないかもしれません、こちらは地区大会まで。そしてDの部はというと、、、人数制限がありません。

http://www.ajba.or.jp/saitama/2018/HS-7-28.pdf

 リンクは2018年の高校D部門進行表。A編成で毎年全国大会までコマをすすめるようなバンドも、A編成のほかにD編成にバンドを送り込んでいます。ただし、A編成のチームとD編成のチームは掛け持ち禁止のため、某大阪の名門高でいうところの「雪組」がD編成で出場することになります。
 また当然「人数制限なし」ということは、編成が極めて小さいバンドも出場できるわけです。その結果、100人を超える大所帯のあとに、10人程度の超小編成バンドを聴いたりする場合も。同じ部門にも関わらずこの人数の落差があるため、D部門のコンクールは一種独特の様相を呈することになります。

 

 いっぽう、大阪府大会を見ると、B編成の扱いがまた異なっています。

 大阪府A組=55人以内、12分以内に課題曲と自由曲を演奏、全国大会まで
 大阪府B組=55人以内、7分以内に自由曲1曲を演奏、地区大会のみ
 大阪府小編成=30人以内、7分以内に自由曲1曲を演奏、関西大会まで

 多くの都道府県でB編成が小編成部門のことを指すのに対し、大阪のBは人数こそA編成と同じですが、課題曲は演奏しません。したがって上位大会もありません。また、小編成の部は別に設けられていて、こちらは他の都道府県と同じ基準でコンクールが行われています。
 A組とB組はどちらか1つしか出場できないため、埼玉のように一軍以外のメンバーの出場機会として利用することもできないようです。B組の出場校数は年々減少しているという情報(未確認)もあります。いつか再度足をはこんで、この目で確かめたいものです。

 TV番組の影響で「コンクールメンバー」という概念が一般の人たちにも広く浸透しましたが、それが存在するのはごく一部の学校のみです。大多数の学校ではまずメンバーの確保、ということが先に問題になりますし、出られない子がいる、ということは稀だと言ってよいでしょう。

 

 

 広大すぎる北海道の「地区大会」

 A編成以外の編成が、都道府県によってすこしづつ異なっていることはわかりましたが、大会の枠組み自体が他と違っているのが、北海道です。
 北海道以外の都道府県では、通常、県大会のあとに支部大会、のち全国大会という順番で並んでいますが、北海道に限っては、地区大会→北海道大会→全国大会 ということになります。

 

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 それもそのはず、11つある地区はいずれも、内地のひとつの県かそれ以上の広さを持っています。北海道大会は実質支部大会と同じような扱い(東京都大会も)ですから、どちらかが不公平ということはありませんが、北海道以外では「地区大会」と言ったとき、県大会の前段階のコンクールを指す場合があるので、少々混乱しそうです。
 北海道は地区によってその人口に著しい差があることもよく話題になります。どうしても札幌や函館などの大都市圏のほうが、より多くのチームを上位大会に送り出しています。
 あまり多くは言われないことですが、地区によって、また県によって、上位大会へとコマをすすめられるバンドの数には、じつは差があるのです。


 …というところでちょっと疲れてきたので続きはまたこんど。 →後半につづく

 

*1:次第に参加する支部は増え、現在は北海道・東北・東関東・西関東・東京都・北陸の各小編成部門で優秀な成績をおさめたバンドが出場できる。

*2:ちなみにこうした運用になった経緯には、こちらhttp://www.ajba.or.jp/ishikawa/img/23ad2012.pdfの提言が大きく影響しているようです