くわだてありき(Bandsearchlightブログ)

吹奏楽(全国大会以外)とかコンサートホールとか高架下とかの話が主です。

MidwestClinicはじめてレポート(その6・23日)

12月20日〜23日の4日間、シカゴはマコーミック・プレイスで開かれていたMidwestClinic2017にはじめて参加した様子をお届けする本レポートも、ようやく最後の1日分となりました。

過去の記事はこちらからどうぞ。

 

 

 巨大な教育音楽のカンファレンス、MidwestClinic2017大会も、最終日となりました。いよいよ今年のメインゲストとして招聘された、広島ウインドオーケストラの演奏がはじまります。

◆11:15~12:30 Hiroshima Wind Ensemble(広島ウインドオーケストラ)

 ちょっと早めに会場入りしていたのですが、マコーミック・プレイスを行き来する人の多くがキャリーケースを引き、帰り支度を整えています。

  じつはこの「ご帰宅モード」の人たち、昨日3日目の夜にはすでにちらほら見かけておりました。今年の日程では最終日が23日。クリスマスを基本的に自宅で家族と過ごすアメリカの人々は、最終日の講演をまたずに会場をあとにする人も一定数いたようです。そうなると俄然気になるのは、一番最後のプログラムである広島ウインドオーケストラをどれだけの方が見にきてくださるかということ。

 広島ウインドがその命運をかけ、クラウドファンディングをおこなったことは、日本ではちょっとした話題になっていました。(5,185,000円の支援を集め、10/23日に目標達成。詳細はこちら)カレンダー上のやむをえない事情とはいえ、寂しい客席ではせっかく日本から来た甲斐が…と心配だったのです。

 しかし、ありがたいことにそれは杞憂に。

 

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 外には入場を待つ大勢の人達が列を作り、

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 前方からどんどん席が埋まっていきます。やはり日本のバンドの演奏は、毎年多くの参加者に楽しみにしてもらっているようで、あとからあとから人が集まり、ほっと胸をなでおろしました。

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 会場入り口では、広島らしく大きな折り鶴がお出迎え。

 

 当日配布のプログラムはこちら。

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 12/16に広島で行われた壮行公演と異なるのは、藤田玄播の「天使ミカエルの嘆き」くらいでしょうか。代わりにカール・L・キングの行進曲「インヴィクタス」が前半に入っています。邦人作品は兼田敏の「吹奏楽のための組曲」のみで、あとは米国初演も含む、欧米の作品のみで構成されています。

 

 

 演奏が始まると、まず目をひいたのは指揮者の下野竜也氏。無駄のない美しい動き、団員のみならず観客の心も奪って行く様子が手に取るようにわかります。ときおり見せるお茶目なしぐさがアメリカの人々は気に入ったらしく、客席からはときおり笑いもとびだし、和やかです。

 兼田作品では、日本の作品のもつ精緻な美しさを存分に聞かせました。広島ウインドのポリシー通り、決して無理なフォルテシモは出さないのですが、きめ細かなアンサンブル、確かな技術力が光ります。日本の吹奏楽の、芸術としての美しさを追求する姿は、アメリカの人々にしっかりと届いていたと思います。その証拠に、万雷の拍手とともにスタンディングオベーションもとびだしました。順番が前後しますが、大トリのジェイガー「交響曲第1番」では、演奏されてはすぐに廃れていくアメリカの吹奏楽曲界に、まるで『逆輸入』するかのような、日本で育まれた吹奏楽のエキスが披露されました。

 そして本公演中もっとも人々の心を掴んだのは「ワイルドグース」だったと言ってよいでしょう。テキサス出身のライアン・ジョージは、2014年にこの作品のオリジナルバージョンを作曲(その際の編成はハープ、ピアノ、ソロ・イングリッシュホルンを含んだラージ・アンサンブルのための作品だったそうです)。今回広島ウインドの委嘱で改訂版(2017edition)が完成し、この日が米国初演と相成りました。真っ先に拍手を送りたいのは、イングリッシュホルンの山口里美氏。全編にわたって文字通り「主役」を努めました。要するにタイトルにあるグース(鵞鳥)の役回りです。ケルトの人々についてを題材にした本作品では、鵞鳥は神聖なものの化身として見立てられていたという故事を元にストーリーが作られています。時に野性味を帯びて、時に気高く、孤独に長く歌いあげる様子は、この瞬間のためにアメリカへ渡ってきてよかったと思わせる何かをもっていました。

 練り上げられた下野氏の作品解釈、研ぎ澄まされたアンサンブル。後半、ケルトのリズムが覚醒し盛り上がっていった先では、ここまで温存してきたであろう満を持してのフォルテシモが大きなホールいっぱいに響きわたります。どれをとっても一級品の演奏の最中、ちょうど目の前に座ったバンド・ディレクターたちが徐々に椅子の背から身を起こし、食いつくようにステージを凝視しているのが目に入った私は、思わず心のなかで快哉をさけんでいました。終演後はすぐさま怒号のような喝采と拍手、そしてスタンディングオベーション。驚くほど多くの人々が間髪入れずに立ち上がってステージに賞賛を送っている様子を見渡し、ここまでの広島ウインドの道のりを思うと、涙をこらえることができませんでした。

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 終演後は多くのお客さんが広島ウインドの団員諸氏に話しかけ、話をしたり写真を撮ったりといった光景が長く続きました。

 本当にこれが一番最後のプログラムだったことを思い出させるように、談笑する人々の合間をぬって、ステージや椅子が片付けられていきます。

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 この4日間は本当に、慣れない英語でのコミュニケーションに悪戦苦闘し、規模の大きさにただただ圧倒され、日本で安穏と吹奏楽を聴いてきた身にはかなりのハードな体験でした。しかし天気にも運にも見放されず、数々のすばらしい演奏、体験を持ち帰ることができたように思います。これをお読みになってくださった方にはぜひとも、来年のミッドウェストクリニック2018をお薦めします。日本の吹奏楽は確かに素晴らしい文化として確立されつつありますが、狭い日本の中に置いておくにはあまりに惜しい。それが最終日を迎えた私自身の率直な気持ちでした。もはやアメリカから作品やメソッドを輸入する日本、ではないことがよくわかりましたし、ミッドウェストクリニック自体も、ただの見本市、作品紹介ではないことをしようとしているように思いました。(日本、中国、コロンビア、シンガポールなど、アメリカ以外の国々の吹奏楽団を招聘していたことにも、その方針は現れているように感じました)

 これだけ英語のできない者が単身で行ってもなんとかなるのですから、きっとみなさんにもどうにかなるはずです。日本からの参加者がひとりでも多く増えることを願い、これにて私の拙いレポートを終わりにしたいと思います。長々とお読みくださり、ありがとうございました。

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