くわだてありき(Bandsearchlightブログ)

吹奏楽(全国大会以外)とかコンサートホールとか高架下とかの話が主です。

北海道の吹奏楽地区大会はどんな区域分割で行われているのか

 毎年いろんな都道府県の地区大会や県大会にでかけ、その土地ならではのローカルルールや、開催環境などをウォッチする趣味をやりはじめて7,8年ほどたちました。昨年家族が増えたこともあり、しばらくは遠出できないだろうな…と、現在は妄想にとどめております。

 それで、まだ訪れたことのない土地、とりわけ北海道の地区大会について、アクセスを調べたりコンクールハシゴプランを考えたりしていたのですが、その最中、ふと疑問がわいてきたのです。北海道って札幌とか旭川とかの地区別に大会をやってるのは知ってるけど、市町村でいうとどこからどこまでが何地区なのか、全然知らないぞ、と。

【1】前提

 北海道の地区大会と他の都府県の地区大会の違いについては、以前の記事(広大すぎる北海道の「地区大会」)で解説していますので、詳しくはこちらをどうぞ。

 たとえば、私自身の育った県はだいたい4つのエリアに区切られており、リンク先でいうところの中部がそのまま中部地区、西部が西部地区と分けられています。いちばん規模の小さい加茂(伊豆のさきっぽのほう)は、富士市富士宮市御殿場市などと一緒の東部地区としてコンクールに参加していますが、これは誰がどう見ても納得の分割方法です。

 

 さてそれを踏まえまして。北海道の吹奏楽連盟内には11つの地区があります。

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 コンクールの結果などだけを見ていると、北海道の代表はほとんどが札幌地区と函館地区、ときどき北見地区が混じるような印象を持っていました。近年のみを見ても、7つある代表枠のうち、2018年は札幌4、函館3。2019年は札幌3、函館2、北見2という結果です。

 

 しかしそれぞれの地区がどこからどこまでなのか、さっぱりわかりません。代表をおおく出してる地区が、面積的にも広いなんて訳ではないでしょうし。それぞれの地区の名称になっている土地の名前も、なんとなく聞き覚えがある程度で、範囲となるとお手上げです。

 というわけで好奇心のまま、いろいろ調べはじめたのですが、なかなか険しい道のりでした。2016年ごろに一度試みて挫折し、ようやく形にできたのは、昨年のことでした。

 

【2】Twitter上で情報を募集する

 

 この時点では、まだあちこち間違いがあります……そもそも支部じゃなくて地区だし。いまとなっては何を根拠に塗り分けていったのかもあやふやな記憶ですが、おそらく各地区のコンクール出場情報などをもとにしたのだろうと思います。特に占冠留寿都陸別など、振興局ごとに見た際の境目にあたる市町村の情報が少なく苦労した記憶があります。当時は「振興局」という存在をほとんどわかっておらず、実際の出演団体でおいかけていたため、出場記録が途切れていたりすると、どちらに区分けしてよいのやら…と迷ってしまったのでした。ちなみに振興局に関しても、2つの振興局に属していると書かれているソースがあったり、例外が多かったりして、混乱に更に拍車がかかります。

www.pref.hokkaido.lg.jp

 

 有り難いことに親切なフォロワー様たちに有益情報をいただきながら、数日後になんとか第2版を仕上げました。

 この時点でもまだ不明な箇所がありましたが、育児などに追われ、ここまでで調査はいったん小休止に入ります。

 

【3】振興局システムの把握~細部の検証

 そしてすこし経った2020年5月某日、とある(非吹奏楽の)道民の方による振興局ごとの特質を列挙したツイートをきっかけに、再び火がつきました。

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  現在は元のツイートを削除されているようですが、この投稿はとても示唆に富んだものでした。それぞれの振興局の大きさ、札幌からの(心理的なものも含めた)距離感など、道民ではない私にもすんなり飲み込めました。

 それを元に、フォロワーのまえはら様(@hikaru_M_hikaru)が、振興局と吹連地区分けの重なりを図解してくださいました。快く許可をいただけたのでツイート引用させていただきます。*1

 

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(まえはら様が手書きしてくださった図です。超わかりやすい!)

 

 情報を整理してみました。だいたいは以下のような感じです。

 ・函館地区…渡島(おしま)振興局+檜山(ひやま)振興局(例外あり※後述)
 ・日胆(にったん)地区胆振(いぶり)振興局+日高振興局
 ・札幌地区石狩振興局+後志(しりべし)振興局(例外あり※後述)
 ・空知地区…空知振興局
 ・旭川地区…上川振興局(南半分)
 ・名寄(なよろ)地区…上川振興局(北半分)
 ・北見地区…オホーツク振興局
 ・釧路地区…釧路振興局+根室振興局
 ・帯広地区…十勝振興局
 ・留萌(るもい)地区留萌振興局
 ・稚内地区…宗谷振興局

 14つの振興局が、ある場所ではそのまま1つの地区として、あるいは2つの振興局が集まって1つの地区として大会を行っているのがわかります。渡島と檜山が合体するのとか、釧路と根室が一緒に活動するのなどは、かなり納得感が強いです。しかし、最も栄えている地域の札幌と、小樽などのある後志が、隣接しているとはいえ同じ札幌にカウントされているのは、なんだかよくわかりません。
 また、上川振興局のみは、真ん中あたりで旭川と名寄、2つの地区に分割されています。詳しい内情はわかりませんが、振興局の中でもとりわけ南北に長い地域なので、一箇所で開催するのはなかなか大変なのかもしれません。

 後日まえはら様のツイートで教えていただきましたが、まず旭川吹奏楽連盟ができ、名寄があとから加入して現在の状態になったとのことでした。上川という地区があって分割した…というわけではなく、もともと旭川/名寄と分かれていたというのは興味深いです。名寄地区の規約には「和寒町以北中川町」と地域の指定がされているものの、旭川地区の規約にはそうした決め事は見当たりませんでした。更に言えば、他の地区の規定を見ても、どこからどこまでを管内とするのかを明記しているのは、この名寄以外にはありませんでした。*2

 また他にも、もともとは苫小牧地区、室蘭地区として発足した支部が合併して日胆になり、東西に長い地域をまとめるに至ったということなども判明しました。

 

 ただ、この記事を書いている時点でも情報が不足しており、定かでない部分もあります。

  寿都郡は本来後志なので札幌の大会に出ていそうなものなのですが、寿都郡黒松内町黒松内中学校は、函館の吹奏楽連盟に加入していると明記されていました。

 

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 ではおなじ寿都郡寿都町のバンドは?というと、未確定ながら、札幌地区だったという情報が寄せられました。しかし現在、寿都中学校には器楽部はあれど、その活動内容はリコーダー合奏だということなのです(またまた余談ですが、この器楽部、全国リコーダーコンテスト全国大会で金賞を受賞したりしているようで、これはこれで素晴らしいです)

 そして寿都町黒松内町に隣接し、函館への距離でいうとより近い位置にある島牧村島牧中学校吹奏楽部は存在していませんでした。(部活はあるが、運動部オンリー)
 

 現時点でもこの問題は未解決ですが、暫定的に黒松内町のみを函館地区にカウントし、島牧村寿都町を札幌地区とみなして色分けをしたものが以下の画像です。 

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 こうして見ると、それぞれの地区に含まれている市町村の数には、かなりの開きがあります。20前後の市町村を擁する札幌地区や空知地区に対し、最も少ない留萌地区は8市町村のみで構成されています。

 ちなみに、それぞれの地区の加盟団体数は、

 函館 111
 日胆 71
 札幌 260
 空知 65
 旭川 94
 名寄 21
 北見 79
 釧路 79
 帯広 73
 留萌 19
 稚内 17*3

 となります。札幌は名寄や留萌の10倍以上です。

 

【4】考察いろいろ

 例の投稿のリプ欄には、それぞれの振興局の大きさを他の都府県と並べた文章がありました。いまは見られないので、マネして以下に列挙してみます。こうして比較すると、それぞれの地区が県連盟と同じ規模のコンクールを開催していることに何の疑問もありません。ただし、それぞれの加盟団体数には大きな違いがあるかと思います。

 十勝(10831.6km²)…秋田とおなじくらい
 オホーツク(10690.5km²)…岐阜とおなじくらい
 上川(10618.7km²)…岐阜と同じくらい
 釧路(5997.1km²)…茨城よりちょっと小さいくらい
 空知(5791.6km²)…だいたい三重くらい
 日高(4811.1km²)…だいたい和歌山くらい
 宗谷(4626.1km²)…だいたい京都くらい
 後志(4305.9km²)…富山よりちょっと大きいくらい
 渡島(3937.5km²)…滋賀県よりちょっと小さいくらい
 胆振(3697km²)…だいたい鳥取くらい
 根室(3497.3km²)&留萌(3445.9km²)…鳥取よりちょっと小さいくらい
 檜山(2630.3km²)…佐賀より大きい

 出典:振興局を都道府県面積ランキングに入れてみたリスト

 

 しかし、どの地区をとっても、ひとつひとつの地域の広さには舌を巻くばかりでした。日胆地区なんか端から端まで300km以上あります。素直にその驚きをつぶやいたところ、複数の方から「コンクール開催地が遠く出番が早いと早朝出発、下手すると前乗り」「道大会に進むと4~500kmの移動はざら」「島の学校は天候に左右される(船が出せなくなる)」などのびっくり情報が寄せられました。地区大会はまだいいほうで、これが毎年札幌で開催される道大会となると、「バスで10時間」「二泊三日の日程が予算の都合で一泊二日の弾丸ツアー」なんてところもあったようです。

 

 

 

 自分の学生の頃を思い返すと、あまりの違いに呆然とするばかりです。中学や高校はともかく、小学生の部ももちろん同じ条件かと思うと、保護者にかかる負担(物理的にも金銭的にも)はいかばかりかと推察されます。

 

 コンクールを開催する会場についての状況にも考えさせられました。というのは、他の都府県では吹奏楽コンクールに適した*4複数のホールの中から、毎年会場を変えて持ち回りで開催することが慣習となっています。しかし、数年間にわたって支部・県大会の開催情報をウォッチしていた際、北海道のコンクール開催場所っていつも同じホールだなあ、とぼんやり感じていたのでした。この問題についても、何人かの方から「地区内にほかに開催に適した規模のホールが無いところは、毎年同じ会場でやるしかない」状況だということを教えていただきました。
 というわけで以下、各地区の夏のコンクールの主な開催場所を挙げてみます。かっこ内は席数です。札幌の地区大会が毎年キタラなのは、端的に言って羨ましすぎますね。

 【函館】北斗市総合文化センター かなでーる(1000)、函館市民会館(1370)

 【日胆苫小牧市民会館(1630)、室蘭市文化センター(1307)

 【札幌】札幌コンサートホールKitara大ホール (2008)

 【空知】岩見沢市民会館まなみーる(1165)、たきかわ文化センター(1101)

 【旭川旭川市民文化会館(1548)

 【名寄】美深町文化会館COM100(450)

 【北見】北見市民会館(1323)、北見芸術文化ホール(576)

 【釧路】コーチャンフォー釧路文化ホール(1524) ※旧:釧路市民文化会館

 【帯広】帯広市民文化ホール(1540)

 【留萌】留萌市文化センター(826)

 【稚内稚内総合文化センター大ホール(1293)

 *5

 ホールの規模はそれぞれバラバラです。500席以下のホールで大編成の吹奏楽を演奏することを一概にダメと断じることはできませんが、あまりいいものではないのはたしかです。それよりもホールに近いバンドととても遠いバンドの落差が毎年変わらないことが問題です。

 たとえば、フォロワーのひさ様(@hisanatsumi)からお寄せいただいた話ですが、北見地区で最も会場から遠い雄武町からのバンド*6は、地区大会へ出場するために約2時間半も移動することになります。釧路地区では羅臼町の知床未来中学校から、コーチャンフォー釧路文化ホールまでが2時間半以上。日胆地区ではえりも町立えりも中学校から苫小牧市民会館までが2時間50分ほどの道のりです。こんなに時間がかかるのでは、楽器の運搬のことや出番の順番のことを加味すれば、当日早朝、わるくするとたしかに前乗り不可欠ということになってしまうでしょう。

 毎年同じ会場にすることは、もちろん使い勝手の面などでのメリットはあると思いますが、地区の端のほうに位置する市町村から参加する団体にとっては、参加するだけで他団体よりも高いハードルを課せられていることになります。おなじ「道代表」であっても、参加条件がこれほど違うのだとすれば、これは近いうちに北海道大会へ遠征せねばなりません。札幌や函館以外の代表校の演奏にも触れてみたいものです。*7 

 

  ここで北海道以外に目を転じてみると、開催地が固定されている例が他に無いわけではありません。
 たとえば千葉県はあれだけ広大な範囲で毎年多くのバンドを全国大会へ送り出す強豪県なわけですが、県大会を毎年千葉県文化会館で行っていることでも知られています。地区大会(予選)はなく、いきなりすべてのバンドが千葉市内のホールに集うわけです。最も遠いあたりでは勝浦や館山のあたりなど、県大会へ行くのに100km弱の道のり、およそ1時間半以上かかります。

 また、以前から沖縄のバンドが全国大会進出にあたって寄付を募る等の記事には接したことがありましたが、長崎や鹿児島、瀬戸内海周辺などの離島で吹奏楽に取り組んでいるバンドにおいても(予選大会があったとしても)コンクールに参加するだけで相当の苦労を伴うのは明らかです。自分が経験してきた吹奏楽活動の環境は、実はとても恵まれたものだったのだと、改めて認識を新たにしました。

 - まとめ・謝辞

  部外者ながらあれこれ調べてきましたが、まだ確定していない箇所はあるにせよ、地区分けの境界線を把握することができたのは大きな収穫でした。しばらくはこの図をつまみにしていっぱいやれそうです。

 また、振興局という線引きが、県境のようにがっちりしたものではないというのも、新鮮な驚きでした。どんなに北海道が広大な大地だとはいえ、あくまで都府県とおなじ1つの行政単位にはかわりなく、その内部の境界には地域ごとのつながりなどを重視した(外部のものにはわからない)配慮がなされているということなのかもしれません。ただ、今後ますます少子化が加速し、学校の統廃合等が進めば、現在と同じ体制で活動を続けていくことは困難になっていくでしょう。なるべく現場に即した形で、かつ地域差の少ないコンクール運営が模索されていくことを、草葉の陰からひそかにお祈りしてこのブログを締めくくりたいと思います。

 

 今回記事をまとめるにあたり、たくさんの方から情報をお寄せいただきました。

 末筆ではありますが、ここで御礼を申し上げたいと思います。

 

 まえはら様 @hikaru_M_hikaru
 ひさ様 @hisanatsumi
 さいとうさん様 @vgtemu26
 榊本真希@フォスターミュージック様 @makijyo_foster
 坂井貴祐様 @sakai_takamasa
 すぎやまかずこ様 @kazukosugiyam
 木野のお兄さん【公式】様 @kinobuyu
 かぴ社長様 @kapisyacyou_sub

 また、貴重な情報をtogetterにてまとめさせていただきました。

togetter.com

 

 皆様、このような戯れにお付き合いくださり、本当にありがとうございました!

 

 

 - 追記

 ・札幌地区と函館地区の境目について、もし詳しい情報をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひお教えいただけますと嬉しいです。(寿都町黒松内町島牧村近辺)
 ・他にも、地図の塗り分けと違う地区大会に出てるよ、のような情報も、ぜひぜひ!

 

 - 追記その2

 まとめをしている時に、稚内地区のコンクールについて、その存続を危惧する情報をお寄せいただいたので、ちょっと追記。

 そもそも、11地区のうち稚内だけが(そして他の都府県でも)公式サイトを持っておらず、その活動内容はかなり謎の部分が多いです。こちらこちらのブログなどを拝見するに、中学生から一般団体まで活動しているバンドはあるとのこと。しかしその数は少なく、先生と生徒が一緒に演奏したり、コンクールの前後の時間を使って「吹奏楽祭」を開催し、コンクールには参加していない学校のバンドにも演奏機会を設けるなどしているようです。もう、なにから驚いてよいやら、という感じです。

 記事内でも書きましたが、面積だけで言えば和歌山や京都と並ぶほどなのに、2019年の時点で加盟団体数は17団体。しかもますます団体数が減っているといいます。きっと冬季は練習するのも厳しい環境だと思いますし、島からの参加校はこれらに加えて天候にも左右されるでしょう。それでも練習を重ねてコンクールに参加するこれらのバンドの皆さん……なんとか応援できる術があればよいのですが。……あ、ホームページの制作ならお手伝いできるかも。ボランティアでやります!(誰に向けて?)

 

*1:興味のある方は、まえはら様のこちら(https://twitter.com/hikaru_M_hikaru/status/1258973023714983936)のツイートもぜひご覧ください

*2:地区内を更に支部に分けているところはいくつかありましたが、それらの支部の範囲が明記されているわけではありませんでした

*3:稚内地区のみ公式HPが無いため、ソースは北海道連盟のHPより。ただし令和元年時点の数字

*4:※席数が多くても、バックヤードの状況や周辺の駐車環境などを考えると、コンクール会場に適さないホールというのもあります

*5:余談。道民の皆さんは開拓者精神とよくおっしゃいますが、各ホールのHPを見ると、NPOによる運営であったり、HPが平成初期のレトロ感を醸し出していたり、共通項のないながらも各自が各自のやりかたで共存している点に感動をおぼえました。座席表を表示するのに「大きい図なので、重いです」とか書いてあったりするのは、もはや萌えです

*6:雄武町立雄武中学校、雄武高等学校の2校が連盟に加盟している

*7:まえはら様から更に補足をいただきました!https://twitter.com/hikaru_M_hikaru/status/1260358683512336385