くわだてありき(Bandsearchlightブログ)

吹奏楽(全国大会以外)とかコンサートホールとか高架下とかの話が主です。

【レポート】佼成ウインド、祝祭のような特別演奏会@芸劇【追記あり】

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 東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)にゆかりのある指揮者が一同に介し、なおかつ胸躍る曲目ばかりを詰め込んだ特別演奏会が昨晩、池袋の東京芸術劇場でひらかれた。本当は行けるはずではなかったのだが、すべりこみに成功。以下取り急ぎの感想と気づきを書きなぐる。マエストロたちの発言については要約であり、おっしゃったことそのままになっていない場合があることをあらかじめお断りしておく。

 ちなみに座席としては2Fのサイド、ぴょこぴょこと張り出したあたりで、頭の上に天井が無い部分を狙ってみた。個人的には、これはアリだなと思った。

 お世話になった知人の方に入り口でばったりお会いし、そういえばチケット料金って以前から一律だったっけ?などとお話しながら自席へ。制服姿の学生さんもちらほら。この内容で学生席2000円ならば何をおいても買うべき。指揮者が入れ替わり立ち替わり総勢6名も出演というのは、なかなかあるものではない。

 

 まずはA.リード《法華経からの3つの掲示立正佼成会庭野日敬開祖(当時の会長)の喜寿を祝って書かれた、リード自身の作品の中でも重要な一作だ。曲が終わると大井マエストロがマイクを持ってステージに飛び込んできた。どうやら司会を担うご様子。指揮の終わったばかりの山下一史マエストロに話を振ったり忙しそう。ご本人も出番があるのに。

 

 ついで、壇上にはピンチヒッターの原田慶太楼マエストロが現れる。本当は2・3曲目を汐澤安彦御大が振る予定だったのだが、事情により断念されたとのこと。アメリカ帰りの原田さんは「大井くんの頼みとあったら!」と、はつらつとしたお声で笑って話した。大井マエストロに水を向けられてフェネルとの思い出を語る語る。「僕は彼の最後の弟子。ほんとうは楽器(サクソフォン)を勉強するためにアメリカに行って、でもフェネルのおかげで指揮ってすごいと気付かされた」などなど。

 また、TKWOが来月4月1日から一般社団法人へ移行すること、活動を存続する上で重要なことはなにかと問われた原田マエストロは「ここ(ステージ上、客席も)にいるすべてのTKWOを愛する皆さんの助けが本当に必要!」と。アメリカで別の団体の芸術監督をしている彼としては、きっと日本人のドネーションへの熱意が少ないことなどが気にかかっているのだろう。溢れ出す熱いスピーチに、こちらを胸をあつくした。

 

(TKWO Patronage=賛助会)は下記から。

www.tkwo.jp

 クリフトン・ウィリアムズ:《ファンファーレとアレグロは、フェネルゆかりの1曲。シリアスで長く、最後には3パートに分かれてコードをキメるトランペットのソロは控えめに言って神。最近はなかなか聴けないC.ウィリアムズ作品をTKWOで聴けたのだから、汐澤アルヴァマーが無くなっても文句など出るまい。原田マエストロは冷静かつ情熱な棒で、この構築的な作品を見事に聴かせた。それにしても、学生が演るにはひとりひとりに負担のかかる曲だ。

 

 真島俊夫:《BIRDS~アルト・サキソフォーンとバンドの為の協奏曲》より第2楽章「シーガル」指揮は山下マエストロ。還暦祝いの赤いサックスを携えた須川展也と共に、ひたすら美しいひと時を繰り広げた。TKWOならではの、クリームのように滑らかな弱音でのサポートも光っていた。

 

 続いては三善 晃:《吹奏楽のための「深層の祭」》。改めて登場した飯森範親エストロも、原田マエストロ同様、山形交響楽団との関係を引き合いに出しつつ、支援への呼びかけを行った。つくづく、当事者意識を持つことが大事だなと思う。大好きで世界に誇る東京佼成ウインドオーケストラ。それがもし、今すぐになくなってしまうのではないにせよ、衰退してしまうようなところを見たくはない。「ここにいる全員で、100個のアイデアを。そのうち99個はボツかもしれないが、そういう気概で取り組まなければならない」本当にその通りだ。

わずか4分の間に凝縮された三善晃の世界。この作品が世に出た経緯や歴史に思い馳せながら聴き入る。個人的にはファゴットオーボエ・ソロが非常に素晴らしかったと思った。

 

 保科 洋:《風紋(原典版)》本日の白眉。保科氏は杖をついて登場。しかしそれを付き人に預けて指揮台にのぼると、バーに寄りかかることなくそのまま振り通した。

冒頭、腕の長さを半径に、大きな円をえがくようにして振るところと、胸の前で細かく振るところのコントラストを非常につけて振る。波の寄せては返すようなサウンドがさらに強調され、思わず身を乗り出した。抑えるべきを抑え、ここぞという部分でそれを放出する、という姿勢は一貫していて、結果として響きが飽和することなく隅々まで味わえたように感じた。正直言って、作曲者本人の棒で原典版をホール聴取することが叶うとは思っていなかった。割れんばかりの、会場いっぱいの拍手が、同じ思いの聴衆が沢山いたことを物語っていた。

 

休憩を挟んでポップスへ。

H.フィルモア/藤野浩一 編:《Lassus Trombone》
J.S.バッハ/藤野浩一 編:《Siciliano for Solo Soprano Saxophone and Wind Orchestra》
G.アダムス/N.ミロ/藤野浩一 編:Mr.Toad's Wild Ride

 前半の最後が先述の保科氏による自作自演で、そのあまりにも凄い演奏(とダイナミクスレンジの大小)のため、いささか大味に感じられてしまったのは残念。それでもMr.トード〜 はさすがのクオリティ。お祭り感を存分に発露しつつ(トークで藤野マエストロが述べていた)ボストンポップス、シンシナティ・ポップス・オーケストラなどのように洗練されたサウンドで魅了した。

 

 真島俊夫:《三つのジャポニスム》より「鶴が舞う」では客演主席指揮者、飯盛マエストロがみたびの登場。中間部の前後、視界にきらきらと光るものがあった。鶴の羽音を模した打楽器のパタパタとした音に合わせ、木管楽器がビズビリャンド(音を出さずにキイを開閉する)をしていたのだ。残念ながら微細な音のため団扇のパタパタと区別がつかなかったものの、細かなきらめきは視覚的に大変よかった。

 

 

 ラストでいよいよ正指揮者の大野マエストロが登場し、保科 洋《吹奏楽のための交響曲第3番》より第3楽章。前半の壮絶な《風紋》に応えるかのように、コントラストの鮮やかなこと。そしてアンコール前、大井さんの決然とした宣言!

「私には楽団員に不自由のない生活を提供する責任がある。他のマエストロたちがおっしゃったように、我々はいま、新しく不安な道に歩み出そうとしている。いただいたご支援を決して無駄にはせず、更に良い演奏を皆様にお届けすることを誓います」

 出ずっぱりでかなり息の乱れたマエストロからそのように言われ、遂に涙腺が崩壊したのだった。

 

 アンコールは、幻となりかけた汐澤安彦マエストロの予定曲目から。

「汐澤さんの予定曲目はふたつありましたが、アではじまる方の曲を…」

 これには客席おおわらい。

 振り向きざまにタクト一閃、みるみる間に展開されたのは、そう、本家もかくやというほど超速の《アルヴァマー序曲》。2時間以上のフルスロットルでの演奏を思わせない祝祭感。そして曲が最終コーナーにさしかかったところで、なんと下手袖から他のマエストロたちが(杖を小脇にかかえた保科さんまで!)わらわらと指揮台をとりかこみ、思い思いに棒を振るではないか。これには観客も声を抑えきれない。お祭りのような雰囲気の中、大団円となった。

 

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当日プログラム冊子のPDFが公開されていました。→

https://www.tkwo.jp/concert/special_program_fix_site.pdf