くわだてありき

田橋るう(たばし るう)です。吹奏楽とかアトマネとか高架下とかのはなしをしてます。

ブリッツ・フィルの犠牲を無駄にはすまい/吹奏楽演奏会の表方におもうこと:

もうだいぶほとぼりが冷めたろうと思うが、覚え書きもかねてまとめておきたい。この事件はおそらく、吹奏楽の未来のために教訓として残しておかなければならないだろうと思うからだ。

2017年6月7日、ティアラこうとう大ホールで行われた演奏会「ブリッツの課題曲2017」で、ことはおこった。各人の視点を総合すると、経緯は以下のとおり。
この日の企画は普段とは異なり、名の知れた高校吹奏楽部の指導者を招いて、しかも課題曲・自由曲を想定したプログラムをやってもらうという、コンクールに関心のある層にとってはたまらない内容であった。

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当日は昼から同ホールでリハーサル。14時頃からスタッフが打ち合わせをした。

 「その際にスタッフの事前打ち合わせに則り、退館時間を計算した上での
 タイムスケジュール通りに進めるために18:30開演厳守を確認。その
 際に、楽団員分の取り置きチケットの最終申し込みがゲネプロ終了時まで
 であることも事務局スタッフより伝えらえる。」(原文ママ

開演を遅らせられないというのはこの時点で、上から厳に通達された。プログラムが大盛りだったし、トークも含まれたので、終演が伸びることを懸念したのだろう。(ちなみにティアラこうとう大ホールの退館時間は22時)
その後ゲネプロが開始される。ゲネプロの間、表方スタッフはロビーの設営などを行ったことであろう。準備時間はたっぷり2時間以上あったはずだ。17時までの予定だったが、繰り上げて16:15にゲネプロが終了。この時点で、手間のかかる(奏者からの)取り置きチケットのやりとりは締め切られた。

その後、17:45の開場を目指して準備をすすめていたようだが、開場時間よりも前の段階で多数の客がチケット取り置きや当日券の列に並び始めた。しかし(お詫び文には記載が無いが)カウンターを先に開けるなどの配慮は無く、繰り上げ無しに17:45からチケットの対応を開始した模様。
発券体制が遅く、1人に数十秒を要するような状態だったため、列は一向に解消せず逆に伸び、18時の時点でロビーに常時150名もの人が並ぶ事態に。開演5分前になってもこの状況は変わらず。

しかし、ロビーがパンクしているという情報は、全くステージに伝わっていなかったようで、開演2分前には事前打ち合わせどおり、客席から入場する演出のため、奏者がドア前にスタンバイする。
この時点でロビーの外が騒然としていることに、奏者側の誰も気づかなかったのか、そして誰も「開演を遅らせろ」と言わなかったのかは、解らない。
そして、誰も止めないまま、オンタイムで開演。

並んでいた客が全て入場できたのは、お詫び文によれば19:10だったという。その間、自分が予約して対価を払っているにも関わらず、演奏会が始まっていることについて、ロビースタッフに苦情が続出。しかし「事務局スタッフ」は発券事務に追われ、具体的な行動ができなかった。待っている客への声かけや、ステージ側への連絡なども行われなかったようだ。チケット代を返せ、タクシー代を弁償しろなどという避難もおこる。ロビースタッフはそれらの対応をできず、咎められて逆上し、混乱状態にさらに油を注いだ。

招待客のひとりに著名なアニメーション監督がおり、この方も状況に激怒。スタッフに罵声を浴びせ、招待だったが客席には入らず会場をあとにした。
https://lineblog.me/yamamotoyutaka/archives/13138123.html

ブリッツ・フィル代表で指揮者の松元氏は、自分の出番がひと段落してロビーを見に出てはじめて騒ぎに驚き、客に謝罪してまわる。その後、ステージ袖のステマネに状況を説明。(おそらくロビースタッフは精魂尽き果て、動ける状態ではなかったのだろう)

入場したくてもできなかった客への弁償方法として「課題曲1、2を、後半にもう一度演奏することを決定し、タイムテーブルを修正」したという。本来は2名の客演指揮者が、自由曲に見立てた作品を課題曲とともに演奏していたはずだが、「協議の結果」課題曲のみという措置になったようだ。

休憩時間には松元代表がロビーに再び降りて客に謝罪を続ける。アンコール前には代表がステージ上から「終演後、ロビーにてトラブルへのご意見ご要望を受付させていただきたいので、何なりとお申し付けください」と声かけを行うが、具体的な申し出はこの時なし。
退館時間は確かに重要だが、こんな状態に陥るくらいならある程度追徴金をホールに払っても(または代表がホールに詫びを入れて)混乱を避けるために開演を遅らせた方が、トラブルを未然に回避できただろう。

そしてこの後、怒りさめやらぬ客の一部と、前述のアニメーション監督がSNS等でブリッツの対応を厳しく避難する投稿を行う。その怒りの矛先はスタッフのみでなく、吹奏楽全体にも及んだため、これに反応した吹奏楽ファンたちとの間で炎上が起こる。
ブリッツ・フィルのHPには演奏会当日の日付でお詫び文が掲載。次いで6月18日付けで詳細なお詫び文もアップされた。

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ここまで書いてきて、もうだいぶ胸が苦しい。特にそのとき矢面に立つことになったスタッフの心境を思うと張り裂けそうになる。クレーム慣れしていない素人がいきなり数十人の客から罵声を浴びるようなことを想像していただきたい。それこそ「もうやめて!スタッフのHPはもう0よ」的状況だ。オーバーキルがすぎた故の色々が起きたのは、容易に想像がつく。

もちろん対応のまずさを棚上げする気はないし「逆ギレ」したというのも言い訳できないが、この状況は起こるべくして起こった、と言えるのは間違いない。

さて、ブリッツ・フィルの体制として「事務局スタッフ」と呼ばれる人物は、どのような働きをしていたのだろう。ブリッツのHPは現在「About」のページが表示されないため、詳しいことがわからない。ただ、事務局と名乗っていてもその実態はほぼ所属する奏者の手による運営で、専任の事務局スタッフがほとんどいない状況だというのは複数筋からの情報である。

そうすると何が起こるか。開演前・開演中の現場を取り仕切れる人がいなくなるのだ。
なぜって彼らは演奏者だ。いくら事務局でございと言ってはいても、ステージにのってしまったらロビーにいる表方に指示を出すことはできない。将棋でいうところの「歩」はアルバイトなどで揃えられても、それらを束ねる飛車角、金銀といった要員が、すべてステージ上にいたという可能性が高い。
歩兵しかいない状態で、どうやっていつもより格段に多い客を捌けるというのだ。こうなると、そのスタッフひとりの問題というより、ブリッツ・フィルの体制の問題である。

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他の問題点にしても、表方にステマネと同じくらいの強さの責任者を置いていたら解決できたことだ。ロビーの混乱が舞台裏に伝わっていなかった問題も、開演直前の演奏家に声をかけられるだけの立場の人物がいれば、動けていただろう。(時として開演前の楽屋は非常に殺気立った状態になる)

チケットの手配のまずさもそうだ。当日現場をとりしきる責任者が事前に決まっていれば、たとえば1週間なり2週間前の段階でチェックするだろう。そうしたら予約が通常よりはるかに多いことがわかり、当日の混乱を予測できたかもしれない。1台のパソコンからその都度券を発行して渡す、などではなく、たとえばあらかじめ発券しておき、予約者名で探して即渡すような状態にしておくことができたかもしれない。
ロビーに案内係を立たせる采配もできただろうし、客からクレームがきてもその都度謝罪したり、
善後策を検討したりできたかもしれない。

こうした業務を、当日集合のアルバイトに期待するのは、それこそお門違いというものだ。
コンサートホールというところは、いつでも「人が詰めかける危険性」のある場所だ。客入りの芳しくない公演を続けていると、そのことを忘れそうになるものだが、運が悪ければ将棋倒しのようなことだって起こりうる。おりしもイギリスでコンサートを狙った卑劣なテロがあったばかりだ。演奏会はテロの標的になってしまう場所なのだということを、いったいどれだけの運営者が自覚しているだろう。

ティアラこうとう大ホールの定員数は1228名。基本的に、ホールを借りて公演を打つ団体は、老いも若きもアマチュアもプロも、これだけのお客さんを入れても大丈夫だという
準備をしておかなくてはならないはずなのだ。プログラムを馬鹿正直に定員数印刷しろ、ということではない。想定できているかどうかが問題だ。

しかし現場には今も昔も人が足りていない。ホールへのドアにドアマンがおらず「演奏中の出入りはご遠慮を」と貼り紙がしてあるだけのようなことはどこの吹奏楽演奏会でもよく見かけるし、もはやそれがあたりまえになっている。とてもこわいことだ。
ホールを利用する際、どこの会館も必ず要求するのは、適切な人数の案内役の確保と、非常導線の経路確認だ。しかしそれも、運営スタッフだが本番中はステージ上にいる「奏者」が打合せに出ていては、いざという時に役目を果たせない。

吹奏楽の演奏会はどこでも、今回のブリッツのような例になりうる危険性をはらんでいる、というのは言い過ぎではなかろう。学生のうちに自主演奏会を開催したりしていると、この感覚がなかなか抜けないかもしれない。そうした奏者がそのままプロになり、予算の都合もあって潤沢な表方を置かずに演奏会を開催し続けた、そのような事例に私には思える。

 

吹奏楽の熱心なファンの中には、もうこうした粗末な運営に慣れきっていて、それを見越して行動する人も多い。だが佼成やシエナが「プロ吹奏楽団」として当たり前にやっている表方の運営を、
若い楽団こそきちんと意識してもらいたいと切に願う。それが整ってはじめて「プロ」だと、胸を張って言えるはずと思うからだ。
どこの団体もギリギリで運営しているのはわかる。プロとして(実費でない)チケット代をとっている団体でも、バイトに払う予算はとても少ない。奏者の取り分もきっと少ないからだ。
マチュアの表方は圧倒的にボランティアが多いだろう。でも、善意でまわっている部分が崩壊する前に、なんとかせねばならないのだ。

関係者と直接の面識がないばかりにいろいろ書いてしまったが、同じようなことを感じている人はきっと多かろうと思う。その方たちの状況を鑑みて発言しないひともたくさんいるはずだ。
でもそれでは、いつまでたっても吹奏楽は発展できない。その忖度こそ、真に「吹奏楽の闇」と呼ぶべきものなのではないか。

ティアラこうとう 貸し出しについて
https://www.kcf.or.jp/tiara/shisetsu/ichiran/

ブリッツ・フィル お詫び文章(6/18更新)
http://blitzwinds.webcrow.jp/blitz/

(2017年6月22日のbandsearchlight-brogより転載)