くわだてありき(Bandsearchlightブログ)

吹奏楽(全国大会以外)とかコンサートホールとか高架下とかの話が主です。

2015年全日本吹奏楽コンクール地方予選のたび(石川県)

 

 2年目の「巡礼のたび」はどこにしよう。

 わくわく半分、あまりにも選択肢が多すぎて途方にくれるのが半分、という心持ちでいた私に、大学院のときの恩師がひとこと、教えてくださいました。
「石川県のB編成は面白いよ。課題曲があるんだ」
「え、それはどういうことですか???」

 

 

 【2015.7.18 石川県吹奏楽コンクール 高校B編成・フリーの部】

 

 今年は転職および環境の変化に伴い、夏の期間お休みを長く取るのが難しい状況でした。が、奇跡的に石川県のB編成は業務の調整ができ、1泊2日という厳しい日程にはなりましたが、なんとか実現と相成りました。そのかわり別会場をはしごすることはできませんでしたが。

 昨年は結構なハードスケジュールで、帰ってから体がキツすぎたので、今年はちょっと楽をして昼行便の高速バス。それも、せっかく金沢へ立ち寄るのですから、おいしいものもちょっとは味わいたいというわけで、
 1日目…移動→夜は飲み歩き(?)
 2日目…コンクール
昨年に比べると、かなりゆるっとしたプラン。

 

↓昨年(2014年)の様子はこちらから。

brosebrosebrose.hatenablog.jp

 

 というわけで快適な6時間ほどの高速バス旅を経て前日の夕方に石川県入りし、大きなカウンターのおでん屋さんで地元の美味しい日本酒に舌鼓。駅隣接の商業エリアに、お土産物だけかと思ったら、そこそこな規模の飲み屋街も形成されていたのです。

とろりとした吟醸日本海の幸、美味しゅうございました。


 翌日は早起きして、まずは21世紀美術館へ。……なぜかというと、コンクールの開始が13時からだったため、時間を無駄にするよりは、と、観光も織り込んでみたのです。

時間が足りず、兼六園は入り口のみ……

 

小雨だったからなのか、21世紀美術館は比較的空いており、スムーズにひとめぐり、お土産を買う余裕も。

 

 * * * *

 

 美術館もひとりで巡ったほうが断然面白い。わずか2〜3時間ですが、なかなか楽しめました。
 さっと金沢駅までとんぼ返りして、いよいよ旅の主目的であるコンクールのために電車移動します。(この電車がなんと、天候不良で特急運休のとばっちりを食い、のどかな田園風景にそぐわないレベルの激烈満員電車だったりしたのですが、まあそれはおいときましょう)
 ダイヤ乱れがあり、定刻より遅く能美根上駅に到着。駅前に1台だけ停まっていたタクシーをひろって、根上総合文化会館「タント」へ向かいます。

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能美根上駅からタントへ

 1994年オープンとのことでしたが、非常にキレイなホールでした。最寄り駅から約12分と、いちおう徒歩圏内ですし。でも実際訪れてみると周囲にあまり建物がなく、広々と白く舗装された文化会館が田んぼの中にこつ然と現れるので、箱物行政の産物的な感じがぬぐえません。(※2019年現在も公式サイトが無く、市の持ち物として管理され、おそらく貸館メインであろうことが推測されるので、余計にその感じを強くします)

 ちなみにこのホール、松井秀喜選手の故郷である旧根上町(合併し現在は能美市)にあり、ホールのロビーは松井選手に関わるペナントなどで埋め尽くされていました。

 

 

 

 さて、おそらく中学生と思われる受付の学生さんから硬券とプログラムを買っていよいよ入場します。入場料は1,000円。高校B、およびフリー部門のみですが、プログラムを見るとたしかに自由曲の他にも曲名が。一気に期待が高まります。

 

 


 客席はかなり空いており、1~2割がまんべんなく散らばるような感じ。大抵のコンクールでステージ正面にかかっている吊り看板がありません。おそらく天井の構造上、看板を吊り下げることができないのでしょう。そのかわり背後・左右ともに天井まで反響板に覆われており、音響は良さそうです。場所によっては出入りのために反響板の一部を開放したまま進行する大会もありますから、これは恵まれた方だと思われます。連盟旗と朝日新聞社の社旗は左右のテラス席から掲げられていました。

 作品についてのアナウンスは自由曲のみでした。生徒と指揮者が入場すると、まずは団体ごとに選んだコラールが鳴り響きます。よくバンドの練習等で基礎練習の仕上げに練習するような、単純だけれど極めるのは難しいやつです。選択肢が多いからか、別団体との曲カブりはほぼありません。8~16小節程度の曲ばかりなので1分もかからず、大会の進行は非常にスムーズ。その後、A編成と同じようなごく短いインターバル(団体によっては奏者位置の移動も)があって、自由曲が始まります。

 数団体聴き進んでみると、コラールを聴いた時点で大体の「期待値」を推し量ることができるようになり、その予想は概ねハズレなしでした。コラールをきちんと演奏できているバンドは、どんな自由曲でも充実したサウンドを届けてくれます。反対に「ちょっと大変そうだな」と思うコラールのあとにくる曲は、確かに聴き映えのする人気の作品だったりするのですが、粗を隠しきれない、詰めの甘い演奏が続くのです。ああ、さっきのコラールでこうだったから、確かに自由曲でもここは難有りだなあ……と思うこともしばしば。げに恐ろしきはコラール。バンドの力量を実に正確に暴き出します。

 この日の個人的なお気に入りバンドは、県立門前高校、県立輪島高校の2校でした。人数は少なめですが、確固たる基礎の上に築かれたコラールと、よく練られた音楽が高感度抜群。無理のない選曲にも好感が持てました。特に門前高校の演奏した高橋伸哉《レールウェイ》(※2014年の響宴「スクールバンド・プロジェクト」委嘱作品)は、確か最低10人から演奏可能ということでしたが、彼らは7人でもよく健闘し、きちんと作品として成立させていました。


 ちなみに演奏以外のことについてちょっと触れておくと、客席が空いていることもあってか、前年度大阪で見られたような「お静かに」のプラカード周回等は見られず、非常に落ち着いた雰囲気の中での進行でした。また、時々見かける「舞台の端で進行管理している人が客席から見切れてしまう」ような、残念な光景もありませんでした。
 出場団体数が少なく余裕があるためだと思いますが、総じて穏やかに、音楽的にコンクールが進行する様子は、大変気持ちのよいものでした。

 

 B編成と聴くと、どうしてもA編成になれなかったバンド、という先入観にとらわれがちでしたが、たとえ編成が小さくても「音楽を学ぶ」という姿勢を崩さず、生徒への音楽教育がいかになされるべきかを考えたら、コラールを課題曲に据えるというのはとても合理的で、自然なことのように思えました。
 晴れの舞台に緊張しつつのびのびと演奏する高校生たちのサウンドは、都会の押しの強いバンドばかり聴いていた耳に心地よく、爽やかな気分でホールをあとにしたのでした。