くわだてありき(Bandsearchlightブログ)

吹奏楽(全国大会以外)とかコンサートホールとか高架下とかの話が主です。

コロナ禍のチラシ挟み込み事情考察

 以前こんな記事を書いた。

brosebrosebrose.hatenablog.jp

 ウィズコロナ、アフターコロナと呼ぶべき時代の流れの中で、これまであたりまえだった紙のチラシは、生き残れるかどうかの瀬戸際に立たされている。

 

 この件で最も打撃を受けている企業に、コンサートサービスがあるだろう。(首都圏に限られるが)大きなコンサートホールの入り口で、ホールのスタッフとは別の制服を着た係から、音の出ないラテックスのビニール袋に入ったチラシの束をもらったことのある方は多いだろうと思う。彼らはコンサートサービス社から派遣されたアルバイトだ。同社は演奏会の主催者などからチラシを一枚いくらで引き受け、演奏会場で配布する。主催者は人手を割くことなく「この公演に来るようなお客さんに、うちの公演も聴いてほしい」と思った演奏会に、伝手がなくても挟み込みをすることができるのだ。

  しかしコンサートサービスも、そもそも演奏会が開催されないのではどうしようもなかっただろう。秋頃になってようやくぼちぼちと演奏会が再開され、コンサートサービスのチラシ束をまたもらったという目撃情報が聴かれるようになった。ただしその束がコロナ前よりいくぶんか薄くなってしまっているだろうことは想像に難くない。

 

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 そもそも、制作サイドのほうでは前々から「いつまで俺たちは紙のチラシを作り続けるんだ。このデジタル化していく時代のまっただなかで」という意見が根強くある。公式サイトをわざわざ閲覧しろとはいわない、SNSでもぽちっとフォローしてもらえば、必要なときに必要な情報を気軽にカスタマーに届けられるではないか。という訳だ。その意見にコロナ対応が拍車をかけた。実際、現在行われている公演では、その多くで以下のような感染防止対策がとられている。

 ・チケットは目視もしくは観客自身がもぎって所定の箱等に入れる

 ・曲目解説(プログラム)の冊子は、平積みにされたものを観客が自分で取る

 ・紙のアンケートは挟み込みなしのところが多い(WEBアンケートでの回答を推奨するなど)

 ・もちろんチラシの挟み込みはなし

 (以上は抜粋。ここに挙げた以外の対応については全国公立文化施設協会の出しているガイドラインなどを参照のこと)

 

 これらの対策をとっての開催で、真っ先に変化があったと気づいたのは、アンケートの回答数であった。如実に減った。逆にチラシラックの周りには「密を避けてください」と声をかけねばならないくらいの人だかりができた。

 秋口になると、じかにお声をいただくこともあった。
 「プログラムにチラシ入ってないから、あちこちから集めなきゃいけなくて面倒」
 「挟み込みのチラシがないと、情報がなかなかはいってこない」

 どちらのお声も60代以降だろうと思われるお客様のものだった。我々はこうした世代の方々をメインターゲットにしていることも多くあることを忘れてはならない。日常的にパソコンを使い、スマホを問題なく楽しんでいる世代と違い、彼らにとってデジタルデバイスでの情報収集は「重い腰を挙げねばならぬもの」なのであり、できればプリントアウトして読んだり手元に置いておきたいようなものなのである。こうした世代をターゲットに入れている以上は、もうしばらくは紙の宣伝材料を作り続けねばならないだろう、というのが私の個人的な見解だ。

 

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 さて、こんな状況で激減しているだろうと思われるのが、挟み込み作業である。前述のとおり、プログラムを手渡しすることさえ控えなければならない状況の中、わざわざ人的リソースを割いてプログラムに挟み込みをするというのは、どう考えても現実的ではない。普段から興行を主催しているならまだしも、年に何度かのコンサートを、しかも学生主体で実行している吹奏楽団などが挟み込みに消極的になるのは当然のことだと思う。

 冒頭に挙げた過去記事で問題にしていたのは、主に「関西方式」「関東方式」とはなんぞやということだった。関西方式がいわゆる列をつくってみんなでぐるぐるするやつ、対する関東方式とは挟み込み志願団体が1団体づつ順番に作業するやり方だ。

 2020年10月現在、作業者同士の密を避け、かつ安全にチラシ挟み込みを遂行するとしたらどんな方法が考えられるだろうか。

 

 まず関西方式はどう考えてもやめなくてはならない。作業者同士の間隔をあけるように厳命したとしても、大人数での作業ではどうしても隙ができるだろう。関東方式も、各団体の代表が会場に来る必要がある時点で難しさがでてくる。

 いろいろ考えた挙げ句の妄想が以下の通り。一般吹奏楽団の定期演奏会あたりを想定してのシミュレーションだ。

 

 ①演奏会にチラシをはさみこみたい団体は、前日の指定された時間までに、各々のチラシを演奏会会場へ郵送(発払い)する。
 ※演奏会会場以外の場所で挟み込みをすることは現実的ではない。なぜなら、挟み込みをしたあとのプログラムというのは非常に不安定なしろもので、崩れやすく運搬に不向きだからだ。

 ②演奏会を主催する団体側は、①で発送されたチラシを前日あるいは当日の早い時間に受け取り、主催団体の中の少人数で挟み込み作業を行う。

 ③挟み込み作業は、個人個人が長机1つなどある程度のスペースを確保し、そこに全種類のチラシを並べ、個人で冊子への入れ込みまでを行う。

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 ④挟み込みの済んだプログラム束をお客様がピックアップしやすいよう入り口付近に配置し、開場後は適宜補充を行う。

 

 ど適当な挿絵で申し訳ないが、作業風景としては概ね上の図のようになる。作業者は机の前を左右に言ったり来たりしつつ、ひとりでチラシを挟み込んでいくことになる。無論、作業者は少なければ少ないほうがよく、全員が手指を念入りに消毒することが前提である。
 関東方式とも関西方式とも呼びがたいが、強いていうなら「個人プレー関西方式」というところだろう。ただし、アマチュア団体の挟み込みでよく見られる、作業人員の供出はこの場合不可能だ。出自と体調のしっかり把握できている自団体の人間を使って作業するしかない。もしチラシが余ったとしたら、依頼団体のメンバーが公演(を観た)後に回収することは可能だろう。

 

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 こうまでしてもチラシをはさまなければならないのか、と尋ねられるかもしれない。こたえはいまのところ、「あなた方のコンサートを楽しみにしているお客の客層による」としか言いようがない。デジタル世代でない客層にも自分たちの公演をアピールしたければ、紙のチラシを避けて通ることは向こう10数年は不可能だろうと思う。少なくても2020年現在では。代案があるとすれば、前もって宣伝してほしいコンサートが確定しているならば、プログラム自体にチラシと同様の宣伝を掲載することだろう。ただしこの場合、掲載団体との連携を密にする必要が生じるし、バーターが成立しなくなる可能性もあるが。

 

 こちらとしてはただでさえ興行の数が減っている中で、必要としている人に情報が届かないという状況だけは、なんとかして改善したいと願うのみである。実際に演奏会でチラシ挟み込みしたぞ、或いはそれを貰ったぞ、ということがあれば、ぜひコメント等でお知らせいただければと思う。

 

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